CGM(持続血糖モニタリング)で、もっと「あなたらしい」血糖管理を

2025/07/08

CGM(持続血糖モニタリング)で、もっと「あなたらしい」血糖管理を

糖尿病の治療は、血糖値を良い状態に保つことがとても大切です。 最近では、rtCGM(持続血糖モニタリング)という新しい機器(当院ではリブレ2)を使って、より詳しく血糖の状態を知ることができるようになりました 。

CGMは、体のなかの血糖値の動きを24時間記録してくれる優れものです

これまでのHbA1cという指標に加えて、CGMでわかる新しい指標を使うことで、あなたの生活に合わせた、よりきめ細やかな血糖管理ができるようになります。

CGMでわかる新しい指標とは?

CGMの登場により、「時間」を基準にした新しい血糖の評価指標が生まれました

  • TAR (Time Above Range):目標範囲超過時間 血糖値が180mg/dLを超えている時間の割合です 。高血糖の時間がどのくらいあるかを示します。
    • 目標:
      181mg/dL以上が25%未満(レベル1)
      かつ
      250mg/dL以上が5%未満(レベル2)
      とされています 。
  • TBR (Time Below Range):目標範囲下時間 血糖値が70mg/dL未満の低血糖になっている時間の割合です 。低血糖は体に負担をかけるため、特に注意が必要です。
    • 目標:
      70mg/dL未満が4%未満(約1時間、レベル1)
      かつ
      54mg/dL未満が1%未満(約15分、レベル2)
      とされています 。

これらの指標は、CGMのレポートでAmbulatory Glucose Profile (AGP)として表示され、血糖変動のパターンを視覚的に把握するのに役立ちます。

グルコース変動の理解とAGP、そして%CVの活用

AGPは、通常5本の曲線から構成されており、中央の線は血糖値の中央値(50パーセンタイル)を示します。この中央の線を中心に、25〜75パーセンタイルの範囲が濃い色の帯で、さらに外側に5〜95パーセンタイルの範囲が薄い色の帯で表示されます。

AGPを通して、以下の血糖変動の傾向を読み取ることができます。

  • 日内変動: 中央値の上下動から、1日の血糖値の変化の傾向を把握できます。
  • 日差変動: IQR(四分位範囲:25〜75パーセンタイルの範囲)やIDR(百分位範囲:5〜95パーセンタイルの範囲)の垂直方向の幅から、日ごとの血糖値のばらつきを読み取ることができます。

血糖の安定性を評価する際には、中央値の推移が示す曲線の勾配とピークにも注目し、可能な限りフラットな推移を実現することが望ましいとされています。ただし、生活リズムが著しく不規則な場合には、中央値がフラットに見えても実際には血糖変動が大きいことがあるため注意が必要です。

また、血糖変動の指標として**%CV (Coefficient of Variation)**も重要です。 %CVは、血糖値のばらつき(標準偏差)を平均血糖値で割ったもので、血糖値の変動の大きさを相対的に示す指標です。 %CVの値が小さいほど血糖変動が安定していることを意味し、

%CVは、血糖コントロールの質を評価する上で、HbA1cやTIRと並んで重要な指標です。

AGPを活用することで、血糖変動の傾向や解決すべき問題がある「時間帯」を視覚的に把握できるため、その特定の「時間帯」に焦点を当てた治療介入が可能となります。

なぜこれらの新しい指標が重要なのでしょうか?

HbA1cは過去1〜2ヶ月の血糖の平均値を示すものですが、CGMの新しい指標は、血糖値が1日のうちでどのように変動しているか、高すぎたり低すぎたりする時間がどれくらいあるかを具体的に教えてくれます。 例えば、HbA1cが良くても、実は隠れた低血糖が頻繁に起きている場合など、TIR, TAR, TBRを見ることで、より実態に合った治療の調整が可能になります

治療への活用例:病態に合わせた目標と戦略

これらの新しい指標を活用することで、医師はあなたの血糖変動のパターンを詳しく分析し、例えば「食後の血糖値が特に高くなりやすい時間帯がある」といったことを発見できます。これにより、食事の内容や運動のタイミング、薬の種類や量などを、よりパーソナルに調整できるようになります。

特に重要なのは、

低血糖は日常生活に大きな影響を与えるため、1型糖尿病でも2型糖尿病でも同様に、まず低血糖のリスクを避けることが治療の第一歩となります 。HbA1c値にかかわらずTBRの増加を避けることが大前提です 。

その上で、TAR(高血糖時間)の改善に取り組み、最終的にTIR(目標範囲内時間)の達成を目指します

<1型糖尿病の場合のTBRとTARの目標と対処法 >

  • TBR(低血糖時間)が目標値以上の場合(低血糖が多い場合) 低血糖のリスクを避けることを最優先し、治療の継続を検討します。必要に応じて、TBRの増加につながる大きな血糖変動を是正するため、基礎インスリンや追加インスリンの減量、糖質インスリン比の変更、インスリン効果値の増量、補正インスリンの中止・減量、低血糖アラートの活用、またはAutomated Insulin Deliveryの導入などを検討します 。
  • TBR(低血糖時間)が目標値未満の場合(低血糖が少ない場合) HbA1cの目標値(一般的には7%未満)に到達しているかを確認します。
    • HbA1cが7%未満の場合:現状の治療を継続します。
    • HbA1cが7%以上の場合:TBRの増加につながらないよう常に留意しつつ、TAR(高血糖時間)の減少を目指します。対処法として、基礎インスリンや追加インスリンの増量、糖質インスリン比の変更、インスリン効果値の減量、低血糖が原因で高血糖が起きている場合のその低血糖予防、高血糖アラートの活用、1型糖尿病に保険適用のある経口血糖降下薬の追加、Automated Insulin Deliveryの導入などを検討します 。

<2型糖尿病の場合のTBRとTARの目標と対処法 >

  • TBR(低血糖時間)が目標値以上の場合(低血糖が多い場合) 低血糖のリスクを避けることを最優先し、治療の継続を検討します。必要に応じて、TBRの増加につながる大きな血糖変動を是正するため、基礎インスリンや追加インスリンの減量、SU薬・グリニド薬の中止・減量、低血糖アラートの活用などを検討します 。
  • TBR(低血糖時間)が目標値未満の場合(低血糖が少ない場合) HbA1cの目標値(一般的には7%未満)に到達しているかを確認します。
    • HbA1cが7%未満の場合:現状の治療を継続します。
    • HbA1cが7%以上の場合:TBRの増加につながらないよう常に留意しつつ、TAR(高血糖時間)の減少を目指します 。対処法として、食事療法・運動療法の見直し、基礎インスリンや追加インスリンの増量、経口血糖降下薬の追加・増量(SU薬の追加・増量は推奨されないが、食後高血糖が目立つ場合にはα-グルコシダーゼ阻害薬、速効型インスリン分泌促進薬の追加・増量を検討)、GLP-1受容体作動薬などの追加、低血糖が原因で高血糖が起きている場合のその低血糖予防、高血糖アラートの活用などを検討します 。

あなたの血糖のパターンを理解し、より「あなたらしい」生活を送りながら血糖コントロールを改善するために、CGMとこれらの新しい指標をぜひ活用していきましょう。


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